ヌラタ地方の歴史とスザニ

町の由来

「ヌラタ」という町の名前をペルシャ語をアルファベットに翻訳するとNur-otaと書き、”Nur”は光線、otaは父で「光の父」を意味し、砂漠で命を落とした人々の伝説にちなんだ名称のようです。


ロケーション

ヌラタはブハラの北220km、ヌラタ山脈の西の端の麓にある村で、

フェルガナ谷の南の端が砂漠と出会う場所にあります。

8世紀中ごろ~9世紀中頃には古代の地図には登場している古い町です。

アレクサンダー大王に作られたと言われているそうです。

彼の軍事基地の遺跡が現在でも残っています。

ヌラタは戦略的にオアシスの農業地域とステップ草原の遊牧地域の境界にある町です。

春には農業ができるメリットがありましたが、水がそれほど豊富ではなかったことが、

この地域の人口規模を制限していたと考えられます。


シルクロード交易における位置づけ

ペルシャからのキャラパンはタシケントへ行くにはブハラを経由するのが一般的でしたが、

そうするとその先で通るサマルカンドやジザフでも税金を払うことになるので、

迂回してヌラタを通ってタシケントへ向かうルートも使われたようです。

軍隊の招集スポットとして便利な地域でした。

カザフスタンとブハラとの交易の中継地点としても栄えたと考えられるこの町は、

タジク系民族が住んできた地域です。サマルカンドやブハラと同様に、

トルコーウズベク語の海に浮かぶタジクの孤島のような存在でした。

前述のように周辺地への交通の要所であったため、

ヌラタは10世紀ごろまでは、神聖な土地と考えられており、

戦争から兵士が帰るとお祝いのデコレーションが町に施されるような場所だったようです。

ある種の資料からはこの地への巡礼の旅は春に行われていたことが想定され、

花の季節のイメージがあったことが、花のモチーフが好まれたかもしれません。

産業としては、工芸がそれほど発達しておらず、農業が産業の中心であったという説と、

品質の高い紙や織物などを生産していたという説もあり、あまりはっきりとはわかっていないようです。

いずれにしても、ヌラタはブハラの地方都市という位置づけには違いないようですが、

「単なる田舎町」だけではないユニークな存在であったかもしれません。


ヌラタのスザニの源流

ヌラタのデザインはブハラやサマルカンド、シャフリサーブスのデザインの派生と位置付ける人もいます。

しかし、ヌラタのデザインが他の都市のデザインとミックスされたのはロシア支配後のことで、それ以前のヌラタのオリジナルデザインが存在し、むしろ周辺の都市のデザインにインスピレーションを与えたと解釈している人もいるようです(例:タシケントのグルクルパ)

 ここでいう「ヌラタのオリジナルデザイン」の最大の特徴は、中心から広がるフラワーブッシュ(花束?花の茂み)です。中心のモチーフは星型だったり、四角だったりします。

絨毯のデザインに良く見られる形で、ペルシャのサファヴィー朝、17世紀のムガル帝国の木のデザインなどを参考にしたのではないかとの説があります。一見とても離れているこの地域の文化が、こんなところまで来ていたのかもしれませんね。

その他のヌラタスザニの特徴としては、小さな水差し、鳥、時には人間が、伝統的な柄が入らないような小さな隙間に配置されることがあります。クジャクや馬は特徴的なモチーフです。なぜこのような独自のスタイルがヌラタで生まれたのか?明確な答えはありませんが、ヌラタは19世紀後半まであまり経済的に発達した地域ではなかったことも、このような上質なフォークアートを育んだ背景としてあった可能性が指摘されています。


まとめ

ロシア時代以降は、ヌラタでもスザニの商業化が進み、

各地の人気のトレンドやデザインがヌラタでも取り入れられていきました。

ヌラタで作られたスザニの中には、明らかに地方で(自宅用に)使う

範囲を超えた高級品も存在しています。

このようなヌラタのスザニは、経済的にも文化的にも影響力の大きかった

ブハラの裕福な家庭からの注文品であったかもしれません。

そのため、デザインはブハラの人の好みで発注されたこともあったでしょう。

しかし、スザニのデザインはその地域のデザイナーが行うので、

全体の構成は流行を取り入れても、細部や糸の色使いなどは、

各地域のテイストが反映されるものだと思います。

一つ一つのディテールにこそ、ヌラタ地方の持つ独自のカルチャーが活きて、

魅惑的なヌラタデザインが今も作られているのだと思います。 <終わり>


※ 参考資料

”Silk and Cotton Textiles from the central asia” Susan Meller

”SUZANI central Asian decorative embroidery", O.A.Sukhareva

" Khans, Nomads & Needlework - Suzani and Embroideries of Central Asia" Russell S. Fling

スザニ手帳

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